祈年と牛肉

岩波文庫古語拾遺』御歳神より抜粋

昔在神代に、大地主神、田を営る日に、牛の宍を以て田人に食はしめき。時に御歳神の子、其の田に至りて、饗に唾きて還り、状を以て父に告しき。御歳神怒を発して、蝗を以て其の田に放ちき。苗の葉忽に枯れ損はれて篠竹に似たり。


【現代語訳】
昔、神代のこと、オホナヌシノカミが田仕事を始める日に、牛肉を農民らに振舞った。その時、ミトシノカミの子がその田にやってきて、豊穣祈願の神饌に唾を吐いて帰り、オホナヌシの様を父に告げた。父であるミトシは怒って、田にイナゴを放った。すると稲の苗は忽ち枯れ果てて、篠竹のようになよなよとしおれてしまった。


だいぶ前の話だが、先月2月11日の建国記念日のことだ。
神社で言うと、祈年祭が始まる時期だった。
南畠親房氏がミーティングも兼ねて、オレのアパートに遊びに来ることになった。

前々から「焼肉やろう」と話していたので、オレは近所の業務用食料品の店へ肉を買いに行った。
3000円分、2キロ分は買っただろう。
因みにこの店、基本的に冷凍食品しかないので、この肉も当然カッチカチに凍っていた。
部屋に戻ったオレは解凍の手段に悩んだ。
電子レンジだと時間がかかる上に、失敗すると肉が煮えてしまう可能性がある。
そこでコンロの鍋で湯を沸かしながら、その中に肉をパックごとぶち込んだのだった。

オレは少し焦っていた。
親房氏が到着する刻限が迫っていたのだ。
まだ焼肉の材料が少ない為、親房氏を駅で出迎えて、ついでに駅のそばのスーパーへ買出しに行こうと思っていたのだ。
半分を解凍し終えた頃、親房氏から「そろそろ着く」と電話があった。
オレは「出掛けている間に余熱で解凍できるだろう」と思い、残り半分を鍋に入れて、駅へ向かった。


――約30分後。


南畠「しっかし焼肉やるのも久し振りだよ〜」

不度「オレもだってー。よく考えたら今年入ってから、ベーコンと挽肉以外まともな肉食ってねえしさー」

南畠「イエユキ先生、いくらなんでも長いってそれ!」

不度「いや、でもホント牛肉食うの久し振りでさー……」


ガチャ。
むわぁぁぁ……。

自宅の鍵を開けたオレに、すさまじい量の湯気が襲いかかってきた。


不度「…………」

南畠「先生、どうしたんですか?」

不度「ごめん、フッさん。……肉の解凍してたんだけど、火ぃかけっ放しだった





オージーのカルビ1キロがしゃぶしゃぶに。





南畠「うわ! でも良かったですねえ、ガスコンロじゃなくて。ガスだったら今頃……」

不度「……うん。オレ、タバコ咥えてたから、爆死……?」


もともとオレの部屋に備え付けられていたコンロは電気式だ。
普段は火力の弱さに常々愚痴っていたのだが、この時ばかりは電気で良かったと思わざるを得なかった。


南畠「今日は実質、我々の同人サークル『まさに外宮!』旗揚げ式じゃないですか。早速、何処の神様に祟られたんですか、先生!

不度「どう考えても御歳神だね……。田植えに関する祭日に牛肉だもん、キーワードが揃いすぎてるよ……。不覚!」


とりあえず、肉を食いながら今後の方針と、参加イベントが決定されたのだが、全く以てタダじゃ済まない予感がする。
去年も天罰で二人とも入院していると言うのに。

不安だ。





不度「いや、これ、祟りとか天罰じゃないかも知れない」

南畠「ほ? と言うと?」

不度「シーシェ●ードの食品テロさ! “クジラを殺す野蛮な日本人にやるオージービーフはねえ!”とか、そんなで! 日本は昔から捕鯨国だって主張しているし、時の皇太子がイルカ虐殺したこともあったし……!!」

南畠「いや、そっち関係無いから!」